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東京高等裁判所 昭和36年(ラ)379号 決定 1961年11月07日

抗告人 株式会社日本相互銀行

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨並びに理由は、別紙即時抗告申立書記載のとおりである。

本件記録によると、横浜地方裁判所は、神奈川県高座郡寒川町宮山一、八四四番地湘南保証牛乳株式会社につき昭和三三年六月二九日同会社取締役から会社整理の申立を受け(同裁判所昭和三三年(ヒ)第二四号)、同年七月五日に整理開始を決定し、弁護士金子文六を管理人に選任し、同時に管理人に対し整理計画の立案を命じ提出期限を右命令の日から二箇月と定めた。爾来右整理計画案の提出期限は数次にわたりその都度六箇月ずつ延長せられ、同三五年九月二〇日附をもつてさらに同三六年三月五日まで延長されたが、いまだその提出をみるに至つていないことが認められる。さらに、同記録と同裁判所昭和三五年(ケ)第六号不動産任意競売事件記録によると、抗告人は、昭和三五年一月一九日整理会社に対し抵当債権として元本金二、八〇五、四〇三円と昭和三三年七月二八日までの損害金九一、六六二円及び右残元本に対する同三三年七月二九日から完済まで日歩五銭の割合による損害金債権を有するとして整理会社所有の土地並びに処理工場等建物及び工場抵当法第三条による機械器具につき抵当権実行のため競売を申し立て(同裁判所昭和三五年(ケ)第六号)、同裁判所においては同三五年三月二一日競売手続開始決定をなし競売手続を進行していたところ、前記会社整理事体に関し、同三五年五月二三日管理人金子文六から右競売手続中止申請がなされ、同裁判所は同年六月二七日附をもつて同日から同三六年四月三〇日まで右競売目的物件に対する競売手続を中止する旨の決定をなしたが、同三六年四月二三日同管理人から中止期間伸長申請があつたので同年五月一八日附をもつて同日から同三七年三月末日まで右競売手続を中止する旨の決定をなしたことが認められる。

よつて案ずるに、会社整理事件において整理計画の立案命令があつた場合は可能な限り速かに整理計画を立案提出し早期に会社整理の目的を達成することが望ましいことは言うまでもない。しかし、本件記録によると、右競売目的物件は牛乳処理工場等であり、もともと牛乳、乳飲料の処理販売、乳製品の製造販売等を営業目的とする整理会社の基本財産というべきものであることが認められるので、右競売目的物件をどのように整理計画案に盛り込むかは別として、ともかく同物件は会社更生のために欠くことのできないものであり、右物件を活用する途が開かれ会社整理の実を挙げることができるならば、債権者の一般の利益に適応するものといえるであろう。一方、本件記録によれば、整理会社は昭和三五年一〇月協同乳業株式会社に対し競売目的物件を賃貸したことが認められ、右賃貸借の締結により物件の価額の低減をまねき、そのため抗告人の利害に実際上多少影響を及ぼすことは否定し得ないが、本来競売手続開始決定による差押の効力は当該物件所有者の利用までも禁ずるものでない以上、その影響は抗告人においてこれを容認せねばならないものであり、また右影響は競売手続の一時中止によつて急速に増大するというものでもない。つぎに、競売手続の一時中止によつて競売手続の実施の遅延をきたしその結果物件の老朽化をもたらすとしても、本件記録と右競売事件記録とによると、右競売目的物件の時価は抗告人の抵当債権をほぼ弁済するに足るものであり、また抗告人は同物件以外の物件についても抵当権の設定を受けている事実が認められるから、抗告人の抵当債権は比較的担保にめぐまれているといわねばならない。したがつて、昭和三七年三月末日までの期限を画して競売手続を中止しても抗告人に不当の損害を及ぼすおそれはないと判断される。

されば、原裁判所が商法第三八四条に基き昭和三六年五月一八日附をもつて同三七年三月末日まで競売手続を中止する旨の決定をした上、管理人より整理計画案の提出を待ち爾後の処理をはかろうとしたのは、一件記録に現われているように、整理計画案樹立については困難な諸事情の伏在することを考慮すれば、やむをえなかつたものといわねばならない、(もつとも原裁判所がこの上とも管理人に対し整理計画の立案提出を督促する等の措置を講じ抗告人等債権者の被ることあるべき損害を可及的に減少せしめるようにしなければならないことはいうをまたない。)

よつて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担と定めて、主文のとおり決定する。

(裁判官 原増司 多田貞治 吉井参也)

即時抗告申立書

抗告の趣旨

原決定を取消し本件を原審裁判所に差戻し更に相当裁判を為すことを求める。

抗告理由

一、抗告人は右整理会社所有の不動産機械器具一式に対し昭和三十一年八月廿九日所轄法務局受付の極度額金六百万円也の第一順位根抵当権を有し且此根抵当権に依り担保された貸付元金残金弐八〇万五四〇三円也及昭和三三年六月十一日以降日歩五銭の割合の約定損害金債権を有する処右整理会社が約旨に反し右元利金の支払をしないので昭和三五年一月一九日横浜地方裁判所に対し右債権に基き担保物件一切の任意競売を申立て同裁判所昭和三五年(ケ)第六号とし繋属した処右整理会社は同裁判所に対し昭和三三年(ヒ)第二四号を以て会社整理申立を為し同三三年七月五日整理開始決定が為されていた処より抗告人申立の右競売事件の競売手続は整理会社管理人金子文六の申立により昭和三五年六月二七日付決定で翌三六年四月三〇日迄中止されるに至つた。

二、抗告人は右中止決定に対しては整理会社の早急な誠意ある整理案の樹立を期待し散て異議を申述べる事なく管理人整理会社重役の整理案樹立を待つの態度に出たのであつたが、爾来今日に至る迄右整理会社は整理案の樹立を為さず裁判所に対し漫然と整理案提出期限の延長を申請し昭和三三年七月五日以来七回余も期日の延長を得たるに不拘其間社内株主或は債権者役員等が暗躍、夫々自己の有利に整理計画を導かんと争いを繰り返し会社取締役以下其間何等会社の業績向上に努力し早急に整理し再建を計る挙に出てたる事蹟みられず。

三、然るに整理会社管理人金子文六は今般更に整理案提出期間を昭和三七年三月末迄延長を求めると共に此許可を受け前記抗告人申立の競売事件の競売手続に付ては再度の中止申請を為し右裁判所は昭和三六年五月一八日付決定を以て昭和三七年三月末日迄之を中止する旨決定をしたのである。

四、然し前叙の如く整理会社に於て会社再建に付努力を尽さず旧債弁済整理に関して無定見無計画に過ぎ其間已に三ケ年になるも関係者等に於て誠意ある整理案樹立に至らざるは前叙の通りである。然も整理会社は整理申立の当初会社の旧債の整理を計り、其事業の再建を目的とし訴える処あり本件整理開始となりたるに不拘中途己に管理人上申の如く昭和三五年四月協同乳業株式会社との間に名糖牛乳類製造契約を締結し整理会社の工場機械人員を挙げて協同乳業の協力工場となる事を約しこの為め整理会社の工場及施設等の改装を為し多額の新な負債を為し暫時協同事業とし収益を見込み得るかに見へ偶々此のとき右裁判所の任命した検査役も之を検査し適正な整理案樹立も可能の如く報告ありたるが右協同乳業との協力契約は整理会社の機械器具の老朽化により所期の目的を達する見込なきに至り破約の上更に昭和三五年一〇月二五日付工場賃貸借契約を為し整理会社は工場一切を昭和三五年一〇月一日以降一ケ年の契約で賃料月額二十三万円毎月末支払の約で協同乳業へ賃貸するに至つた此事は管理人提出の、上申及契約書写により明かであるが実際に整理会社工場を調査するに従来の会社機械等は取はずして片付けられ協同乳業の新式機械を設置し専ら会社の為め乳製品製造が営まれている処で、整理会社は事実上乳製品製造業を廃し一個の不動産賃貸業に堕している状態である。

五、如斯工場全部を挙げて他に賃貸し本来の会社目的遂行不能に陥り収益としては家賃収入月額二十三万円と其他の不確定の僅かな収入を財源とし五千余万円の債務の整理に如何なる方策を樹てんとするや誠に疑はしき限りであつて事茲に至つた上は本整理申立により訴へた初期の整理は到底望むべきもない事は明かで日時が延長されるに従い不動産は老朽化し機械器具はスクラツプとなり其上賃貸借の事実関係は長期化につれ如何とも動かし難く不動産機械等の売却其他処分には重大且多額な支障や損害が起きる事は予見出来る処と考へる其間毎月の経費を支出するときは賃料等収入を蓄積するとしても何程が見込まれるであらうか(未だに此賃料収入の収支の報告が無いが造作修繕費債務に月賦支払中と聞く)

六、己に乳業会社として設備の老朽化し同業者間の競争には勝てず従業者も四散して全く再建見込が無く加え工場施設一切をあげて他に賃貸するの余儀なき現況から此賃料収入を財源に負債数千万円の支払計画を立てても数十年を要する事になり到底整理の遂行が望めず一方債権者は如斯予測の上に是以上猶予は成り難い処であらう抗告人は右賃貸借の工場建物機械土地等を担保とし前掲根抵当を有する処斯の様な次第では日々担保物件の価値は減損されて損害を蒙むるところであり予想される賃料収入を唯一の財源とする長期割賦整理案には絶対に同意せず反対するもので債権者の同意は最早全然期待出来ぬ処である。将来管理人に於て整理見込立たずとし案樹立の抛棄或は整理案に対し債権者の反対の為め整理不成立のとき破産其他で右担保物件を換価することを予想せば換価は一日早ければ其れ丈け有利と考へられる、如斯担保物件の賃貸借によつて蒙むる担保価値の下落は抗告人の耐へ難い処で担保権行使による債権回収の見込も薄れ多大の損害を蒙むる処であるので今に至つてはむしろ競売手続を進行し一日も早く換価する方が抗告人のみならず一般債権者の利益になる所以と考へる。

然るに原決定が是等の事情を考慮せず抗告人申立の前掲競売申立事件の競売手続の中止を決定した事は到底抗告人に於て承服出来ぬ処で如斯くは預り金を以て金融し業務の運行を計る銀行事業は債権の長期回収不能の固定化の為め支障を受くる事になり債権回収の、確保の為め取得した不動産根抵当は空名に終る事になる、況乎担保物件の賃貸借により価格の減損は明に予測されるに不拘此先長期に其換価を抑制される事は不当というべきであるので茲に本申立に及ぶものである。

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